「47年間、一度も刑法を犯さずに生きてきた。だけど、今日から殺人鬼だ。ああ……」 人が人を殺してしまうとき、一体どんな気持ちでいたのかを、しがない会社員、47歳の鳥栖哲雄は、ふつふつと煮えていく死体を前に思っていた――。さかのぼること、わずか数時間前。哲雄は、反抗期の娘・零花に煙たがられながらも、愛する妻・歌仙と共に、彼女の成長を誰よりも願い、日常を送っていた。ある日、哲雄が一人暮らしを始めた零花を訪ねると、その顔に殴られたようなアザがあることを見つける。問い詰めても零花は答えない。意を決した哲雄は零花の家に忍び込み、クローゼットに身を隠す。そこで目にしたのは、零花に手を上げた“半グレ”彼氏・麻取延人。さらに延人は元カノを殴り殺した過去を持ち、ヤクザと共に、零花を貶める“ある計画”を進める超危険人物だった――! 「零花だけは守らなきゃ。たとえ僕たち夫婦に、最悪の結果が訪れても……!!」 愛する家族のため、“ただの弱いおじさん”は、裏社会の猛者たちを相手に、命と知力を賭けた闘いを始める!
(C)山川直輝・朝基まさし・講談社/「マイホームヒーロー」製作委員会
家族を愛するしがない会社員、鳥栖哲雄。47歳。大学生の娘・零花の様子がおかしいことに気づいた哲雄は、たまたま目にした素行の悪そうな彼氏・麻取延人の口から「零花を殴った」という信じられない言葉を耳にする。延人を尾行した哲雄は仲間に見つかり、早速痛い目を見るものの、娘を守るためにさらなる行動を起こす。それが、取り返しのつかない最悪の事態を招くとも知らずに……。
延人を殴り殺してしまった哲雄は、趣味の推理小説で得た知識を活かして、妻・歌仙と協力して死体の処理を試みる。なんとか殺害現場から自宅まで死体を持ち帰った二人は、零花とともにつかの間の家族団欒を過ごす。しかし、延人が行方不明になったことを訝しむヤクザ組織の魔の手は、すでにすぐそこまで迫っていた。
突然、組織に襲撃された哲雄。時を同じくして、歌仙も自宅で襲撃を受けていた。襲撃者の一人・間島恭一は、強引な手段で延人の情報を引き出そうとする。恭一に追い詰められながら、窮地を脱するべく思考を巡らせる哲雄。理不尽な暴力と脅迫を受けピンチに陥る哲雄だが、彼らの接触を想定して、事前に歌仙とある準備をしていた。
“失踪した”延人の行方を探すという条件で、監禁を解かれた哲雄と歌仙。だが、いまだ哲雄への疑いは晴れず監視は続く上に、提示された捜索期限は数日後に迫っていた。これ以上家族を巻き込みたくない哲雄は、恭一とともに、延人をよく知る人物・響が働くキャバクラを訪れる。
恭一とともに窪に窮地を救われた哲雄だが、ある映像を撮影されてしまったことで、さらに窮地に追い込まれてしまう。延人の捜索期限があと3日と迫る中、響の協力を得た哲雄は、大学の後輩である田端をも巻き込み、歌仙とともにある計画を実行に移す。
延人の父親・麻取義辰と話し、延人にも親がいることを思い、悩む哲雄。延人が生存しているという偽映像の情報を流すことに成功した哲雄だったが、組織に恭一とともに呼び出される。映像をチェックする組織のメンバーの様子を、固唾を呑んで見つめる哲雄。その結果は……。
「あなたのご両親は、隠し事をしている。」 恭一はメールを使い零花に接触を計り、少しずつ、確実に哲雄を追い詰めていく。一方、延人殺しの証拠となる遺骨を持った歌仙は、恭一の母親と遭遇する。鳥栖家にとっての危険人物・恭一について、母親から語られた事とは…。
「早く帰ってきてくださいね。みんなでご飯を食べましょう。」と零花と落ち合い、危機を脱した歌仙は、他愛のない約束を哲雄と交わす。そして、組織への不信感を恭一に植え付けた哲雄は、恭一の自宅への侵入に成功する。なんとかここまで辿り着いた…! これがきっと、最後のチャンス。
恭一と食事をともにし、濃密な一週間の終わりを感じる哲雄。明日自分か、目の前の男のどちらかが死ぬ。最後の晩餐を済ませた哲雄は、恭一とともに組織の構成員・竹田の元へ向かう。疑心暗鬼になる面々のもとに、合流する窪。事態は目まぐるしく展開し、クライマックスへ向かう。
「あなたは優しい。あなたでなければ成立しなかった。」 恭一が見せた僅かな綻びを見逃さず、貶めることに成功した。哲雄は安堵し、歌仙に自身の無事と、全てが終わったことを知らせる。一方、組織から追われ逃亡する身となってしまった恭一は、哲雄への復讐のため、行動を起こす。
組織から解放され、零花の部屋を訪れていた哲雄。そこに突然、恭一から真実を語られた麻取義辰が現れ、哲雄は奇しくもあの日と同じくクローゼットに身を隠す。大切な息子の死に場所を知り、感情を露わにする父の姿を目の当たりにした哲雄は、すべてを終わらせるため、麻取と相対する決意を固める。
娘・零花を守るため、人を殺めた鳥栖哲雄。息子・延人を殺され、復讐する麻取義辰。互いにエゴを抱えた父親同士が、醜く本能のままにぶつかり合う。そして、罪を重ね続けた哲雄は、これまでの事を振り返りながら思う。この罪に終わりはあるのか。いつか、赦される日が、来るのだろうか……。