都内ランドマーク各所が一望できる、デートスポットとしても人気の大観覧車のゴンドラに乗っているのは、私立リディアン音楽院に通う高校生、立花 響と小日向 未来。ふたりが手にした鯛焼きは白玉入りであり、絶品。甘すぎず、まるでぜんざいもかくやという口当たりの餡は申し分が無かった。それでも、ふたりの間に緊張が走るのは、何の気なしに未来が響に発した、問い掛けに始まるものであった。返答に窮した響の胸の奥にあるものは、果たして。過去から現在に向けて紡がれたいくつもの物語は、XVに集束していく。聖骸を巡る攻防は、どこまでも真夏の只中。はじける湖面を舞台に、少女たちの歌声が輝きを放つ。
(C)Project シンフォギアXV
悠久の風吹く彼方。先史文明期。砂塵に荒ぶシンアルの野、その付近。施設の暗がりを這いずる血みどろの雄は、自身の権限を以って装置を起動させる。それがいかなるものであるのか、詳らかにされないまま、全ては闇黒に没する。ただ一言、情を交わしたヒトの名を遺して――時は過ぎて現代。南氷洋にS.O.N.G.本部は浮上し、作戦行動を展開していた。此度の目的は、『棺』と呼ばれる遺跡の観測と対策の検討。だが、打ち立てた想定のほとんどは覆り、ロシアの南極観測隊を守るべく、想定範囲外の事態――『棺』そのものとの直接決戦にもつれ込んでいくのであった。真夏にして零下の湖上、新生(リビルド)した六領(シンフォギア)は十全に機能して不足はない。だが、無機質なれど『棺』の攻撃は、かつての難敵と並ぶほどに強烈苛烈。埒外の物理法則は、たちまちにして装者たちを蹂躙するのであった。昏倒する6人。薄れゆく意識の中で立花 響が思い起こすのは、事の始まり。それは、己が手に何を信じて何を握るのかを問われる、まだ見ぬ残酷の幕開けでもあった。
南極に浮上した『棺』には、アヌンナキと推定される謎の遺骸が収められていた。最高レベルの警戒態勢の中、遺骸を狙って強襲するパヴァリア光明結社の残党。閉所にして見通しの利かない状況を作り出し、長物と機動力を封じるエルザであったが、連携するザババの刃は、これまでの積み重ねがもたらす対応力にて撃退に成功する。一連の事態に無遠慮な介入を見せつける米国に対し、苛立ちを隠せない訃堂。そして翼も、新たな脅威に心を乱され、舞台稽古に熱が篭らない。ステージの上も翼にとっての戦場だと、おでこに諭すマリア。思うところはあれど指摘を受け入れた翼は、マリアに交換条件を提示するのであった。力に焦がれた獣たちの思惑は深く静かに潜航し、迎えるは凱旋公演当日。10万の人々にて埋め尽くされたそこは、臨海にして眺望極まる空中の庭園。オープニングサプライズとして翼と共に登場したマリアの姿に誰もが驚愕し、かつて果たされなかったセットリストの続きは、聴く者の胸を沸騰させるのであった。音と光が融け合う空間に想起されるあの日の奇跡。そして跳ね上がる――惨劇の幕。
恐怖の一夜(フライトナイト)より脱出を果たす、翼、マリア、緒川であったが、心を凌辱された翼のダメージは殊の外激しく、ひとり回復が遅れていた。7万を超えてなお増え続ける死者のカウントに、残党には収まらぬ巨悪を予感する一同。ちょうどその裏でミラアルクとエルザは、黒ずくめの男たちと接触を果たしていた。危険運転常習集団による出歯亀に、容赦なく牙を剥くミラアルクとエルザ。最後の目撃者が解体されようとしたその時、空から響とクリスが舞い降りるのであった。装者二人の活躍に加え、コンディションの不調から圧倒されるミラアルクとエルザ。手にしたアタッシュケースを持ち帰るべく速やかなる撤退を選択するものの、遮蔽物無き高空より、狙い澄ましたクリスの銃口が追いすがる。畢竟、ミラアルクとエルザを取り逃がしてしまう響とクリスであったが、アタッシュケースより押収された稀血によって結社残党の目的の一端へとたどり着く。状況と過去の経緯から導き出されるは、これまで幾度となく干渉してきた米国政府の影。それは、聖骸を調査するかの地にて何が起きているのかを窺い知る5秒前の事であった。
この地、この刻の天地に描かれるレイラインによって鼓動するシェム・ハの腕輪。全ては、神の力を手に入れんとする風鳴訃堂の思惑であった。不協和に奏でられる音の羅列に続いて大噴火する人体が、蜘蛛の結界を突き破る。駆けつけた装者たちと相対するヴァネッサは、戦う理由を語る事で響を翻弄する。ペースを乱されながらも理解を深めようとする響を無碍に拒むヴァネッサ。その言葉は、異質と隔たれた存在が覚える諦観からくるものであった。起動儀式の祭壇より、逃走を果たすノーブルレッドと風鳴訃堂。だが、装者を「強き相手」と括った高に、弱さを知るマリアの機知が付け入られると、ここに盤面は覆り、シンフォギア装者たちの反撃が総力をもって開始される。圧倒的な彼我の戦力差。それでも背を向けずに迎え撃つノーブルレッドの不敵な笑み。巧妙・周到に張り巡らされた策の果てに囚われてしまった装者6人は、閉鎖空間内に圧縮されたエネルギーに打ちのめされ、猫噛む窮鼠の逆襲に昏倒してしまう。朦朧とした意識の中、投げ掛けられた言葉に響は、花咲く勇気を思い出すのであった。
握られた拳はヴァネッサの猛襲をぶち抜き、ついに彼女の眼前にて開かれた。怪物が背負う罪は「悪」そのものなれど、心の奥底に悲しさを感じ取る響。再度の対話を試みるものの、だが、その勇気は闖入者によって踏み躙られてしまう。日本政府より突如にして不自然、かつ強引に執行される本部への査察。結果、一時的にではあるが、S.O.N.G.の全機能は不全となり、無力化するのであった。特別警戒待機を、休息という名目にて強制される装者たち。特に困惑するのは、遊びを知らぬ者たちであったが、その解消と気晴らしに響は、先日に断られたばかりのレクリエーションを決行する。市街へと繰り出す響と未来、そして翼とエルフナイン。だが、弱き人を守れなかったと自分を責める翼の表情は暗く、どこまでも沈痛。さらには、誰もが耳を逸らしていた間に交わされた響の気安さが未来を傷つける。昨日までどうにか均衡を保っていた日常と戦場に生じる小さな綻び。忍び寄る悪意は、状況をさらに取り返しのつかない事態へと流転させるのであった。
査察という不意打ちに、一時的にも機能不全となってしまったS.O.N.G.本部。その結果、無理矢理に行動実態を裸と剥かれるばかりか、非戦闘員を危険に巻き込んでしまう。未来とエルフナインの安否を気遣う装者達の想いはひとつであったが、疲弊に摩耗した翼は、マリアの心配をよそに周囲と軋轢を繰り返し、孤立していく。一方で、ロスアラモス研究所より奪取した聖遺物を用いて準備を進めていくヴァネッサ。そこにミラアルクが、エルフナインと口封じから免れた未来を伴ってシャトーに帰還する。神の力をシェム・ハの腕輪より抽出、そして制御する計画は着々と進みつつあった。防人の矜持を躙られ、寄る辺を失った翼を虐めているのは、他ならぬ翼自身。そんな悪循環に滑り込んできた訃堂の言葉は、翼に侵略した「刻印」を容易く掌握。健常であれば惑わされぬその揺さぶりは何故か甘く、だからこそ翼は頬を汚すしかなかった。S.O.N.G.からの反撃に緊急出動を余儀なくされたヴァネッサであったが、激突に己の不利を悟り、危地を覆すべく、やはりロスアラモスで得た情報で翻弄を試みる。敵の搦め手に戸惑いながらも立ち向かう装者達。だが、勝利を目前としたその時――
解体途中のチフォージュ・シャトーに、物質化顕現(マテリアライズ)を果たす「神の力」。それはシェム・ハの腕輪から抽出された、余りにも不気味で巨大なエネルギー塊。設置されたジェネレイターを稼働させたのは魔眼に弄られたエルフナインであり、数多に廃棄されたオートスコアラーの躯体に残存する「想い出」であった。緊急事態にヘリで急行する装者たちであったが、高次元の存在である神の力に対して有効打を見舞うのは困難を極め、たったひとり、神殺しの拳を備えた響だけが、互角以上に立ち回る事が出来た。だが――響もまた、バラルの呪詛から解き放たれたと仮説される少女である。不意をつかれ、器と見初められた身体に向かって巨大なエネルギーが本能的に殺到・集束。ギアと相殺する事で辛うじてその凌辱を殺したものの、ダメージに倒れ伏してしまう響。緒戦にて切り札を欠く訳にはいかぬと、装者たちは撤退を余儀なくされてしまう。一方、囚われの身となっているエルフナインにもノーブルレッドの魔の手が迫る。高周波に振動するヴァネッサの手刀は、彼女にとってどこまでも必殺必至の一振りであった。
廃棄された不要無用たち(エルフナインとオートスコアラー)が、為すべき事のありったけを振り絞った此処こそが「全」。即ち、オレの立つ瀬とばかりに再誕を果たすキャロル・マールス・ディーンハイム。スフォルツァンドに残響する奇跡殺しの錬金術は、ノーブルレッドらを蹴散らしていく。その間にも神の力は、神そのものへと至ろうと、侵蝕のまさぐりを緩める事は無かった。エルフナインたっての頼みを聞いて小日向未来奪還へと動くキャロルは、S.O.N.G.にワールドデストラクターであるチフォージュ・シャトーを用いた策を提案する。それは中断と分解の両面作戦。さらに「もうひとつ」を密かに忍ばせた二段の構え。だが、命を燃やして放った絶唱を以ってしてもチフォージュ・シャトーは呼応せず、キャロルもまた、哲学が編んだダイダロスの迷宮に囚われてしまうのであった。窮地を回天させる為、キャロルは最後の一手である全開のフォニックゲインを装者に託す。エクスドライブと、稼いだ時間に復帰した神殺しの拳にて物理的正面突破を試みるが――無情にも、残酷が掻き鳴らした旋律は、迷い子たちの手を引いて墜ちていく。 そこに在る、在るはずのないカタチ――それこそが、既知にして未知の紫影(エクストラ ヴァイオレット)であった。
伸ばした手もむなしく、遠ざかる紫影に向かって親友の名を叫ぶ響。陽だまりはここに踏み躙られ、物語は約束された残酷に向かって加速しはじめる。自らを人が仰ぐべき神と称するは、小日向未来と交じり合って顕現したシェム・ハである。空の忌々しきを見やるその超然も束の間に、苦悶に表情を歪め、喘きだすシェム・ハ。それは、「器」が人間である以上、避けられぬ間隙に抉りこんだ風鳴訃堂の外道策。神を繋ぎ止めるベく用意された拘束具「神獣鏡のファウストローブ」が依り代の神経を掻き乱す。さらに、起動した刻印に突き動かされた翼は、動けぬシェム・ハを抱えて戦線を離脱。段階という悠長もなく、蜘蛛の巣と巡らされた訃堂の計画は一気呵成に収束していくのであった。アマルガムの無許可使用により謹慎処分となった響は、傷心に彷徨った果てに洸の元を訪れる。激動に崩れゆく響の日常であったが、洸は洸のままであり、だからこそ響を慰撫していく。本性を現した風鳴機関であったが、動きを事前察知していた八紘の手腕にて、包囲網が急展開する。訃堂を追い詰めるは、かつてに訃堂が無理強いした護国災害派遣法違反を用いた強制執行。逆転を試みて風鳴本邸に急行するS.O.N.G.と日本政府。だがそこはすでに万魔殿(パンデモニウム)と化していた
風鳴訃堂の懐く護国の妄執は剣と共に折り砕かれ、呼応するかのように周辺天地が鳴動する。屋敷の地下より屹立するは光、柱、そして――玲瓏たるシェム・ハの姿。月がもたらすバラルの呪詛を憂うシェム・ハはマリアと対決し、神の不条理を見せつける。激突の最中、マリアの纏うアガートラームに知己の気配を感じ取ったシェム・ハは、その力の謂れをマリアに問い質すものの、真実は既に失われており、マリアもまた答えられない。さらに、シェム・ハの力の一端にて在り方を書き換えられたノーブルレッドも闖入し、時間稼ぎの役目も果たしたマリアは、これ以上の窮地に陥る前に撤退を試みるのであった。解決には程遠く、さらに混迷が深まるばかりの状況は、不可抗力に離反した翼に特赦を下す。仲間から差し出された言葉と手は温かかったが、いまだ戸惑う翼には受け入れる事ができなかった。シェム・ハの語った言葉より、次なる目的を月遺跡と絞り込んだS.O.N.G.は、米国特殊部隊を送り込む探査ロケットの警護と、その後に地下より伸長したユグドラシルの攻略と定める。だが、完全怪物と成り果てたノーブルレッドはシンフォギアを圧倒し、ついにはロケットをも圧し砕く。それは力を手にしたものだけが披露する「強さ」であり、初めて見せる「弱さ」でもあった。
アガートラームがマリアに見せる夢。それは刻の彼方に繰り広げられたエンキとシェム・ハの最終決戦、不意を突いて放たれたシェム・ハの光撃にて、身体構造式を銀に書き換えられていくエンキ。だが、左腕を斬り落とすことで変換を食い止めたエンキは、最後の力にてシェム・ハを葬るのであった。テレポートジェムによって月遺跡の内部へと転送されるシンフォギア装者たち。はぐれた仲間を探すべく行動開始しようとした翼とマリアであったが、ペンダントより放たれる輝きは2人を遺跡の防衛機構より逸らし、中枢部へと誘うのであった。装者の不在にどこまでも進行するシェム・ハの目論見。既にユグドラシルの根は地球中心核域に到達している。月からの帰還を算段するS.O.N.G.であったが、後手に回らざるを得ない致命的な状況は覆せずにいた。一方、導かれるままに月遺跡の中枢、管制室にやってきた翼とマリアは、マリアが夢に見たエンキの意識をトレスしたオペレーティングシステムより、秘されし人類史を知る事となる。それは同時に、シェム・ハが為そうとしている脅威の全貌に触れる事でもあった。そこに現れるミラアルクとの対決。だが、翼とマリアは完全怪物の誇る常識外の力と技に圧倒されるばかり。追い詰められた絶望の只中なれど、それでもマリアは逆転すべく翼に奮起を促すのであった。
後手に回らざるを得ない状況を覆すべく、自らの手でシェム・ハと相対する事を決意する弦十郎。つまりは、正面からの激突であり、未来、あるいは弦十郎自身が、無事で済まない結末の選択であった。看過できないエルフナインは、弦十郎を制止するためにひとつの対抗策を提示する。それは、チフォージュ・シャトーの分解機能を応用した錬金術による神殺し。シェム・ハを倒すべく、キャロルとエルフナインの作戦が装者不在の地球に繰り広げられる事となる。絶対的にして圧倒的な力量差を見せつけるシェム・ハに対し、搦め手までもを披露するキャロル。その身を危険に晒した逆転劇にてシェム・ハを追い詰め、神を討ち果たす寸前にまで至るのだが……自らを拘束すべく用意された神獣鏡のファウストローブを纏い、凶祓いの輝きにて錬金術を殺すシェム・ハ。人が神に至る為に研鑽された技「錬金術」を駆使してもシェム・ハの脅威を止める事は叶わず、地球中心核域に向かって潜行するユグドラシルの本格稼働をわずかに遅らせたに過ぎなかった。さらに、月からの帰還を果たさんとする装者たちの前にも、いるはずのないシェム・ハの思惑が立ちはだかる。阻止せんと吼える響の想いも空しく、月遺跡は装者諸共に爆破され、ついにバラルの呪詛は解かれてしまう。全てはシェム・ハの目論み通り。僅かに邪魔された程度。だが、その間隙に希望の総力が牙を剥くのであった。
ここに錬金術と神話持たぬ国の先端技術――そして、ガングニール。全ての神討つ可能性が集結する。今ならば神の摂理を覆せるというキャロルの言葉そのままに、装者の攻撃でダメージを受けるシェム・ハは、ファウストローブの在り方を改造し、全てを終わらせる最終決戦態デウス・エクス・マキナと起動。装者たちの歌を脅威と覚えたからこそ、全ての力を以ってして神の威信を見せつけるのであった。キャロルの挺身にてシェム・ハ必殺の一撃を凌いだ装者たちだが、依然、その危機的状況は変わらず。バラルの呪詛無き今、人類はシェム・ハからの強制接続を免れる術はなく、ここにネットワークは完成。生体演算端末群に偲ばせていた全てのデータ断章を合一し、遂にシェム・ハは現代に完全体へと復活を果たす。それでも、神殺しの力にてただひとり接続に抗った立花 響は、臆す事なくシェム・ハに最後の激突を挑む。呪いが、在り方すらも変えるほどに積層した誰かの想いであるならば、もっと大きな想いにて上書けばいいだけ。小日向 未来を取り戻そうと足掻く響は、神に奪われた未来を求める人類の本能を共に繋いで束ねる事で、己が拳に宿った神殺しの呪いを、<未来>を奪還する祝福へと強引に書き換えていく。戦慄するシェム・ハに向かって真っ直ぐに突き出されたそれは――誰かと手を繋いでいくために花咲いた、どこまでも立花 響のアームドギアであった。